前回取り上げた「労働時間の適用除外」の中で近年特に「管理監督者の扱い」についての労使トラブルが増加しています。そこで今回は、この管理監督者にフォーカスして「名ばかり管理職」について解説します。
★管理職とは
管理職とは一般的には課長や部長など企業の役職者のことを指して使う言葉です。しかし、労働基準法に定められている「管理監督者」はそれよりも狭い範囲で厳密に定義づけられています。
※管理者のイメージ
一般的な管理監督者 | ||
労働基準法上の 管理監督者 |
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★なぜ管理監督者が問題となるのか
労働基準法第41条で、「管理監督者または機密の事務を取り扱うもの」は労働基準法に定められている労働時間、休憩、休日に関する定めが適用されません。このため管理監督者は、始業や就業の時刻に縛られず、休憩や休日が労働基準法通りなくても法的な罰則はありません。最も問題の種となるのが時間外労働です。労働時間の定めが適用されないということは、時間外労働をさせても時間外労働に関る割増賃金(一般的にいう残業手当や休日労働手当)の支払いが必要ありません。
労基法の定め | 一般の労働者 | 管理監督者 |
法定労働時間 | 適用 | 適用されない |
時間外労働 | 適用 | 適用されない |
休憩時間 | 適用 | 適用されない |
休日 | 適用 | 適用されない |
深夜労働 | 適用 | 適用 |
★労働基準法上の「管理監督者とは」
では、労働基準法上の管理監督者とはどういったものを指すのでしょうか?
これについては厚生労働省から何度か通達が出されており、その内容をまとめると以下のようになります。
※管理監督者とは
管理監督者は労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。「管理監督者」に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します。 (厚生労働省通達より一部抜粋) |
このように経営に近い立場にあるものを管理監督者としています。さらに、具体的な判断基準についても通達で明示されており、まとめると以下のようになります。
条件 | 条件の説明 | 管理監督者と認められないケース |
労働時間・休憩・休日の規制の枠を超えてせざるを得ない重要な職務内容を有していること | 労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、労働時間等の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務を有していなければならない。 | □従業員の採用に関する責任と権限が全くない □従業員の解雇に関する職務権限がない □人事考課に関する職務についていない □時間外労働の命令責任と権限がない |
労働時間・休憩・休日の規制の枠を超えてせざるを得ない重要な責任と権限を有していること | 労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるためには、経営者から重要な責任と権限が委ねられている必要がある。 | |
現実の勤務態様も労働時間等の規制になじまないようなものであること | 管理監督者は時を選ばずに経営上の判断や対応が要請され、労務管理においても一般労働者と異なる立場にある必要がある。 | □遅刻・早退管理をされている □労働時間に関する裁量権がない □部下の勤務態様と違いが明確でない |
賃金等についてその地位にふさわしい待遇がなされていること | 管理監督者はその職務の重要性から、一般労働者と比較して相応の待遇でなければならない。 | □基本給・役職手当等の優遇措置がない □賃金総額の一般労働者との差がない □時間単価にしたときの一般労働者との差が同程度以下 |
これらの条件を満たしていなければ、労働基準法の「管理監督者」とは認められない可能性が高くなります。
★近年の管理監督者に関る裁判例
以下は管理監督者に関る裁判例のほんの一部です。
コナカ(H22年2月9日) | 紳士服大手コナカの店長2人が実質的には店長としての権限が無いいわゆる「名ばかり管理職」として扱われていたとして、未払い残業代(計約1,284万円)の支払いを求めていた訴訟で、和解が成立したことが明らかになりました。金額は非公表ですが、会社側が解決金を支払う内容で、原告側は「十分に納得できる」額としています。 |
日本マクドナルド事件 (H20年1月28日東京地裁判決) |
マクドナルドの「店長」が、自分たちは労働基準法上の「管理監督者」に該当しないとして、残業手当の支払いを求めた裁判。「店長」の訴えを認め、日本マクドナルドに対し、未払い割増賃金の約503万円と付加金約252万円の合計約755万円の支払いを命じた。訴訟費用は折半負担。 |
コナカ(H20年1月22日) | 紳士服大手コナカ草加店の元店長が2年分の未払い残業代の支払いを求めて労働審判を申し立てていた問題で、「全国一般東京東部労働組合コナカ支部」とコナカは22日に団体交渉を行った結果、解決金600万円を支払うことで合意に至った。 |
岡部製作所事件 (H18年5月26日東京地裁判決) |
営業開発部長の職にあった原告が、(1)賃金の不当減額と(2)休日出勤に対する割増賃金不払いについて割増賃金と付加金の請求をおこなった事案。「営業部長」の訴えを認め、(1)について309万5,233円、(2)について40万9,149円の支払いを命じた。訴訟費用は折半負担。 |
★求められる企業の対応
上記のような事件が増加しているため、企業側は早急な対策が必要です。これは大手だけではなく中小零細企業でも同様です。企業は以下の手順で対応を取りましょう。
①自社の管理者と労働基準法上の管理監督者との照合 ②労働基準法上の管理監督者にあたらない管理者の処遇や労働条件を確認 ③-1労働基準法上の管理監督者にあたらない管理者に対して時間管理や割増賃金の支払いをする。 ③-2または、労働基準法上の管理監督者に該当するような権限や裁量権を付与する。 |
現実的には③-1の対応をとる企業が多いです。いきなり権限や裁量権を広げるのは、能力の問題や経営上の問題で難しいことがほとんどなので、名前は課長などの管理者であっても、時間管理や休憩・休日の適用、割増賃金の支払いをした方が法的リスクが少ないということです。
以上、名ばかり管理職についての説明でした。これについては近年本当にトラブルが増加しておりますので、トラブルがない内に十分な対策をおこないましょう。
※労働時間関係の解説は以下参照ください。
1.高まる労働時間管理の重要性 2.法定労働時間と所定労働時間 3.時間外労働の基本 4.割増賃金 5.休憩の基本 6.休日の基本 7.振替休日と代休 8.労働時間・休憩・休日の適用除外 9.名ばかり管理職 10.年次有給休暇の基本 |
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