【企業のメンタルヘルス・うつ病対策⑥】適正運用

『産業保健体制の整備4 ~適正運用~』

前回までは、産業保健体制の「教育」について説明しました。
今回は『適正運用』について解説します。

1.体制作り(法定)
 体制作り(任意)
衛生管理体制・組織の整備
2.ルール整備 規程・ルールの明確化
3.教育 ルールや基礎知識の教育・周知徹底
4.適正運用 規程・ルールに則した効果的な運用

 

★適正に運用するためのポイント
 
体制作りや教育・研修が行われるだけでは十分とは言えません。
実際に産業保健の体制やルールが整備されているにも関わらず、精神疾患の労働災害が発生している企業が少なくありません。
その原因としてあげられるのが、運用が適正に行われていないことです。
そこで、今回は適正に運用するためのポイントについて解説します。

産業保健体制を適正に運用するためには、以下の点に注意しなければなりません。

1.経営陣の参画と方針の明確化
 これは産業保健体制に限った事ではありませんが、企業が新しいことを始めるときは、従業員の協力が必要です。そのためには、経営トップや役員が産業保健の重要性を認識し、会社として取り組んでいくんだという姿勢を明示しなければなりません。そのためには以下のポイントが重要です。

①経営トップがプロジェクトの開始と方針を宣言する
②体制作りおよび運営に少なくとも役員1名が参画する
役員会議の議題として取り上げる
④役員による定期監査を実施する
⑤役員も積極的に健康増進に努める

 

2.定期的な教育・研修・説明会
前回の「教育」のテーマでも述べましたが、教育や研修は単発で終わってしまうと効果が一時的なものになってしまいます。大切なのは繰り返すことです。産業保健に関する法律や指針、知識、教養は毎年更新されています。したがって、産業保健を社内に浸透させ、どの従業員も健康管理の基礎や社内ルールを把握している状態を目指すためには定期的に研修や説明会等を実施することが重要です。

・体制開始時は必ず全従業員が研修を受講する
・毎月の健康診断の結果配布時に研修会を実施する
新人研修や管理職研修の内容に産業保健を組み込む
・健康診断結果を基にした産業医による個人面談を実施する
・忘年会や新年会等のイベント前に研修を実施する
健康目的のイベント(賞品付ウォークラリーなど)を開催する

3.定期的な監査・運用チェック
産業保健体制の適正運用のためには運用実態を定期的に調査する必要があります。産業保健関係者がいない部署や本社から離れている部署等では運用がその部署任せになってしまう可能性があります。その状態を放置すれば、運用方法が部署毎に変わってきたり、もしくは名ばかりになってしまう危険性もあります。したがって、定期的に運用実態を調査し、改善が必要な場合は担当者が職場に赴いて指導する必要があります。また、こういった調査を繰り返すことで体制やルールの改善点が見つかり、企業の産業保健体制がより良いものに改善されていきます。
実態調査の方法としては以下を検討してみましょう。

アンケート調査の実施
調査ヒアリング
・部署毎に産業医による個人面談を実施する
相談窓口の周知徹底
・職場ごとの健康診断結果分析

 

4.情報収集と改善活動
産業保健体制は一度できてしまえばそれで終わりというものではありません。上述のように毎年、法律や指針、知識や教養が更新されています。したがって、産業保健関係者が先頭に立って常にアンテナを敏感にして情報を収集・整理する必要があります。そして、そこで得た情報や知識を産業保健体制の運用に活用することが改善につながります。良いものであっても改善することでさらに良いものになるでしょう。そのために、以下のポイントに留意しましょう。

・常に産業保健関係の情報に敏感になる。
・毎月1回は産業保健関係者によるミーティングを行う(衛生委員会で行えればより効果的)
世間の動向や他社の動向にも着目する(良い事例は参考になります)
社外の講演や研修会を活用する

 

以上、6回にわたり産業保健の基本について解説しました。
ここにある知識も随時改善・更新していく必要がありますが、これらの内容が企業経営の参考になれば幸いです。

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代表 森崎和敏