今回から給与計算について説明します。給与計算は管理事務の中で最も重要な業務の一つです。給与は従業員の生活の支えです。また、法的にも毎月1回以上支払わなければなりません。また、給与(賃金)には様々な法律が関係しています。したがって、給与計算は素人が簡単にできるものではなく、慎重に間違いのないように行わなければなりません。実際に中堅企業や大企業では給与計算のための部署があります(例えば人事課給与グループなど)。その給与計算について数回にわたり、静岡県内の企業の給与計算を代行している当事務所のノウハウを活かして説明したいと思います。
★給与(賃金)の基本
給与計算をする前に給与とは何か、どのように決まるのかということについて把握しておくべきです。これについては既に解説を掲載しておりますのでそちらをご覧ください。
・賃金(給与)の基本
・賃金(給与)の決定方法
★給与の全体像
給与計算をする前に、給与の全体像について理解しておく必要があります。給与は大きく分けて「支給項目」と「控除項目」に分かれます。
給与 | 1.支給項目 | 企業が従業員に支給するものです。基本給、諸手当などです。 |
2.控除項目 | 企業が従業員の給与から控除するものです。所得税や社会保険料などです。 |
支給項目から控除項目を差し引いた金額が従業員に支給されます。
[支給額]=[支給項目]-[控除項目]
では、支給項目と控除項目の代表的なものを下表にまとめます。
1.支給項目の一般的な例
基本給 | 給与のもっとも基本的な部分です。給与の大部分を占めます。基本給の決め方は企業によってさまざまです。年齢や勤続年数、貢献度や評価によって決められます。(詳細は「賃金(給与)の決定方法 」へ) |
調整給 | 何らかの調整のために支給される賃金です。例えば、中途入社者の基本給が前職に比べて著しく低い場合に支給する、あるいは前月に計算間違いをして不足していた給与を支給するなどです。 |
時間外労働手当 | 労働基準法により、法定労働時間を超える時間外労働をした従業員に対して支払わなければならない手当です。通常の賃金の2割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。 |
深夜労働手当 | 労働基準法により、22時~午前5時(一部の地域では23時~午前6時)の間(深夜)に労働したものに対して支払わなければならない手当です。通常の賃金の2割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。 |
休日労働手当 | 労働基準法により、法定休日に労働した従業員に対して支払わなければならない手当です。通常の賃金の3割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。 |
通勤手当 | 従業員が通勤するための交通費として支給されるものです。法律的に支給する義務はありませんが、日本では多くの企業が慣行的に支払っているためほとんどの企業が採用しています。ただし、外資系の企業では支払われないこともあります。 自動車通勤の場合はガソリン代に見合う手当、公共交通機関の場合は定期券と同額の手当を支給する企業が多いです。一定金額までは所得税の課税対象になりません。 |
家族手当 (扶養手当) |
扶養家族を養うために支給される手当です。扶養している家族の人数によって支給される金額を変えることがほとんどです。基本的には1人目の扶養家族に対して●●円、2人目以降はその半額もしくは3分の1くらいの金額になるのが一般的です。これも法律的に支給する義務はありません。 |
住宅手当 | 住宅を購入したり、あるいは賃借している従業員のために支給される手当です。住宅の広さや条件により金額が異なるのが一般的です。これも法律的に支給する義務はありません。 |
役職手当 (役付手当) |
役職者に対して支払われる手当です。労働基準法上、管理監督者に対する時間外労働手当の支給義務がないため、役職手当を支給するのが一般的です。世間水準として正確な統計はありませんが、部長手当8~10万円、課長5~7万円、係長2~3万円という金額が多いようです。これも法律的に支給する義務はありません。 |
資格手当 | 業務に必要な特別な資格を所有している従業員に支払われます。資格の難易度や必要性により金額は様々です。これも法律的に支給する義務はありません。 |
特殊作業手当 | 特殊な技能がなければできない業務や危険な業務に従事する従業員に対して支払われます。作業の内容により金額は様々です。 これも法律的に支給する義務はありません。 |
交代勤務手当 | 2交代や3交代などで交代勤務に従事する従業員に対し、支払われます。一般的に夜遅い時間や朝早い時間帯に勤務する方が高い手当が支給されます。これも法律的に支給する義務はありませんが、深夜労働に従事する従業員に法定の割増賃金を支払う代わりにこの手当を支給する場合は、法定の割増賃金以上の金額を支払わなければなりません。 |
※以上は一般的な支給項目の例です。
※青字は法律で支給が義務付けられている手当です。
2.控除項目の例
源泉所得税 | 従業員に支払われる給与の所得税です。所得税法により、事業主が従業員の給与から控除し、控除した所得税を税務署に納めなければなりません。税額は課税支給額×税率で決まります。 |
住民税 | 正確には市町村税と都道県税のことです。原則、事業主が従業員の給与から控除し、市町村に納めなければなりません。 |
健康保険料 | 健康保険法により、従業員の健康保険料は給与から控除し、事業主負担分とあわせて保険者(健康保険組合や協会けんぽ)に支払わなければなりません。保険料額は、標準報酬×保険料率で決まります。(詳細は後日解説します) |
介護保険料 | 介護保険法により満40歳から満65歳までの従業員について、事業主は保険料を給与から控除して健康保険の保険者(健康保険組合や協会けんぽ)に支払わなければなりません。健康保険料と同様に保険料額は、標準報酬×保険料率で決まります。(詳細は後日解説します) |
厚生年金保険料 | 厚生年金保険法により、従業員の厚生年金保険料は給与から控除し、事業主負担分とあわせて年金事務所に支払わなければなりません。保険料額は、標準報酬×保険料率で決まります。(詳細は後日解説します) |
厚生年金基金掛金(企業年金基金掛金) | 厚生年金基金(企業年金基金)に加入している企業は、従業員の掛金を給与から控除し、事業主負担分とあわせて当該基金に支払わなければなりません。掛金は、標準報酬×保険料率で決まります。 |
社員預金 | 社員預金の制度を導入している企業は、従業員の給与から積立金を控除できます。ただし、労使による協定が必要です。 |
共済会費 (互助会費) |
社員の共済会や互助会制度を導入している企業は、従業員の給与から掛金を控除できます。ただし、労使による協定が必要です。 |
生命保険料 | 会社が生命保険会社と団体契約をしている場合等に、従業員の給与から生命保険料を控除して生命保険会社に支払うことができます。ただし、労使による協定が必要です。 |
貸付金返済 | 社員に貸付金がある場合、返済額を毎月の給与から控除することができます。これも労使による協定が必要です。 |
※以上は一般的な控除項目の例です。
※青字は法律で控除が義務付けられている手当です。
この他にも企業によってさまざまな支給項目や控除項目が存在します。それらをすべて把握するにはその企業の賃金規程を覚えるのが最も近道です。
★給与の体系
上記、支給項目と控除項目は企業により異なります。そして、その項目を体系化したものが給与(賃金)です。給与計算をする前に、その企業の給与(賃金)体系を把握しなければなりません。常時10人以上の従業員を雇用する企業では就業規則の作成義務があるため、給与体系を就業規則や賃金規程に定めているのが一般的です。常時10人未満の会社で就業規則がなくても給与計算をするためには給与体系が確立していなければなりませんので、どの企業にも体系はあるはずですので、給与計算をする際は必ず給与体系を覚えましょう。
以上、今回は給与の全体像について解説しました。
※賃金・給与計算に関する情報は以下参照
◎賃金(給与)の基本 ◎賃金(給与)の決定方法 ◎給与の全体像 ◎給与計算の手順 ◎給与計算前の情報収集 ◎給与計算の実施 ◎給与の支払い ◎給与計算後の届出 ◎税金、社会保険料の支払い ◎給与計算のアウトソーシング(代行委託) |
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代表 森崎和敏